野球とデザイン

野球が好きだ。
投げる。打つ。走る。捕る。
やっていることだけを並べれば、とてもシンプルなスポーツに見える。ところが実際は、一球ごとに状況が変わり、そのたびに戦術も変わる。カウント、走者、アウトの数、相手打者、投手の調子。さまざまな条件を読みながら、次の一手を考えなければならない。
実に頭を使うゲームだ。
そして野球を見ていると、試合の途中で必ずといっていいほど「ここが勝負どころだ」という瞬間がやってくる。
一本のヒット。一つの四球。相手の小さなミス。
その一つをきっかけに、それまで動かなかった試合が突然動き始めることがある。
いわゆる「流れが変わる」というやつだ。
デザインの仕事をしていると、この感覚によく似た場面に出くわす。
クライアントの要望を聞き、素材を集め、レイアウトを考える。
ところが、どうにもまとまらない。
写真を動かしてもダメ。文字を大きくしてもダメ。色を変えてもダメ。
考えれば考えるほど、どんどん深みにはまっていく。
野球で言えば、三者凡退が何イニングも続いているような状態だ。
ヒットが出ない。点が入る気配もない。
こうなると、だんだん焦ってくる。
そんなとき野球なら、まずは何でもいいから塁に出たい。
ヒットでなくてもいい。フォアボールでもいい。デッドボールでもいい。振り逃げだって立派な出塁だ。
とにかく一人、ランナーを出す。
すると、そこから何かが起こるかもしれない。
デザインも同じだと思っている。
アイデアが出ないときは、とにかく手を動かす。
写真を置いてみる。文字を大きくしてみる。思い切って余白をつくってみる。普段ならやらないレイアウトを試してみる。
最初からホームランを狙う必要はない。
とりあえず「塁に出る」ことを考える。
すると、闇雲に動かしていたはずのレイアウトの中から、
「あれ、ここはいいかもしれない」
という小さな突破口が見えてくることがある。
その小さな発見が、意外なほど大きい。
そこから写真の位置が決まり、タイトルの大きさが決まり、文字組みが決まり、全体の構成まで一気につながっていく。
さっきまで止まっていた頭と手が、突然勝手に動き始める。
デザインにも確かに「流れ」がある。
ただし、チャンスが生まれたからといって、必ずものにできるとは限らない。
せっかく良いアイデアが見つかっても、詰め切れずに終わってしまうこともある。
野球なら、ノーアウト満塁から一点も取れないようなものだ。
だからこそ大切なのは、まず小さなチャンスをつくる力。
そして、そのチャンスを確実に形にする技術なのだと思う。
野球もデザインも、偶然だけではなかなか勝てない。
ここぞという場面で一本を出すためには、普段からバットを振っておかなければならない。
デザインも同じだ。
見る。考える。つくる。試す。
その繰り返しが、いざというときの一本につながる。
次の仕事で、いい場面が回ってきたときに打てるように。
今日も素振りを続けておこうと思う。



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